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山形地方裁判所 昭和45年(ワ)338号 判決 1976年5月31日

原告 鈴木治雄

被告 日本電信電話公社

訴訟代理人 河村幸登 奥山倫 壱岐隆彦 佐々木寛 粟野勉 芳賀留治 ほか六名

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が原告に対して昭和四五年九月二五日付でした三か月停職の懲戒処分は無効であることを確認する。

2  被告は、原告に対し金七万九、〇〇二円を支払え。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決並びに2の項について仮執行の宣言

二  被告

主文と同旨及び敗訴のときは担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二当事者の主張

一  原告の請求の原因

1  原因は、昭和四五年九月二五日当時、被告日本電信電話公社(以下「公社」ということがある。)の職員として山形電報電話局(以下「山形局」という。)運用部受付通信課に勤務する一方、公社職員で組織された全国電気通信労働組合(以下「全電通労組」という。)山形分会に加入し、又山形地区反戦青年委員会(以下「反戦青委」ということがある。)に参加していた。

2  被告公社は、昭和四五年九月二五日、原告に対し後記の理由で三か月停職の懲戒処分(以下「本件処分」という。)を発令し、これに伴い、原告は、右停職期間中賃金(一か月につき金三万九、五〇〇円)を三分の一に減給され、一か月につき金一万三、一六六円を受給したにすぎない。

(理由)

原告が昭和四五年二月一六日停職処分をうけているにもかかわらず、同年六月二〇日から同月二五日の間に二回にもわたり五日間の無断欠勤をしたこと並びに六月一九日部外者を先導して山形電報電話局に押しかけ、警備に当つていた同局管理者の制止を無視し、再三にわたつて暴言を浴せ強引に入局しようとして管理者の体を押しつけるなどの暴行を加えたことはきわめて悪質な非違であつて、日本電信電話公社職員就業規則五九条一一号及び一八号に該当し、公社職員としてはなはだ不都合である。

3  しかし、本件処分は、次の理由により無効である。

(一) 本件処分は、次のいずれの理由によつても懲戒権の濫用にあたる。

(1) 原告の昭和四五年六月一九日の行動について

イ 原告は、当日、山形局の管理者に暴言を浴せ、あるいは暴力行為に及んだ事実はない。

ロ 仮に、原告に右暴言、暴行の事実があつたとしても、六月一九日は原告の週休日にあたり、当日の原告の行動は純粋に私生活上の事柄であるところ、懲戒の本質が企業の経営秩序違反行為に対する制裁罪であることに照らして、かかる業務外の私生活上の言動は懲戒処分の対象とならない性質のものであるし、仮に、これが懲戒の対象となる場合があるとしても、かかる場合に懲戒権の行使が許されるためには、労働協約、就業規則等に懲戒基準となる事由の具体的明示が要求されるが、公社就業規則にはその具体的明示がない。従つて、原告の前記言動に公社就業規則を適用して本件処分をすることは許されない。

(2) 無断欠勤について

原告は、昭和四五年六月二〇日、二一日、二二日、二四日及び二五日の五日間出勤しなかつたが、(イ)同月二〇日朝、山形電報電話局受付通信課職員木村和男を介し、同課長丹野久に対し、同月二〇日から二二日まで三日間の、(ロ)同月二三日朝原告自ら同課長に対し同日から二五日まで三日間の、各年次有給休暇(以下「年休」という。)の申出をし、もつて年休の時季指定(以下単に「請求」あるいは「申出」と表現する場合がある。)をしたから右各労働日につき原告の就労義務は消滅しており、この間の原告の不出勤は無断欠勤には該らない。

(3) 原告が過去に懲戒処分を受けたことを本件処分の理由の一とすることは、既に処分を受けた過去の行為を再び懲戒処分の対象とするもので明らかに違法である。なお、公社就業規則五九条一一号の「再三注意されて」との文言は、懲戒処分の対象とならない注意処分のみを指すものと解すべきである。

(二) 仮に、前記懲戒権濫用の主張が認められないとしても、本件処分は、原告が、全電通労組の組合員であると共に、反戦青委に参加し、政治的問題、労働組合等に関して意識が高く、職場内外で政治活動や組合活動を行つていることを嫌忌し、原告の政治活動や組合活動を制約することを、目的としてされたものであるから、憲法一四条、一九条、二一条、労働基準法三条に違反し無効である。

4  よつて、原告は、被告に対し、本件処分の無効確認と三か月間の減給賃金分として金七万九、〇〇二円の支払を求める。

二  被告の答弁と主張

1  請求原因事実の認否

1と2の各項は認める。3の項は次の被告主張の事実と合致する部分を除き、すべて争う。

2  主張

(一) 被告公社は、原告に、公社就業規則五九条一一号及び一八号に該当する次の(二)、(三)掲記の非違行為があり、これらが極めて悪質であると判断したので、「懲戒規程(総裁通達第一六号昭和三七年五月一〇日)」に準拠し、東北電気通信局懲戒委員会の答申を得て、東北電気通信局長瀬谷信之名をもつて、昭和四五年九月二五日、原告に対し、日本電信電話公社法(以下「公社法」という。)三三条一項一号、二項、三項、公社就業規則五九条一一号、一八号、五条一項、八項を各適用して、本件処分に付した。従つて、これに伴い停職期間中の原告の賃金は定額の三分の一に減給された。

なお、公社就業規則中本件処分に関係する条項は次のとおりである。

五九条 職員は次の各号の一に該当する場合は、別に定めるところにより、懲戒されることがある。

(11) 非行について再三注意されてなお改悛の情がないとき

(18) 第五条の規定に違反したとき。

五条 職員はみだりに欠勤……(中略)……してはならない。

8 前各項のほか、職員は、局所内において、風紀秩序を乱すような言動をしてはならない。

(二) 原告の昭和四五年六月一九日の非違行為

(1)、(2) <省略>

(3) 被告公社職員の週休日における行動に対する被告公社の懲戒権の根拠及びその行使の範囲

原告は、公社職員の週休日における公社内外の行動については、被告公社の懲戒権は及ばない旨主張する。しかし、被告公社の公社職員に対する懲戒権は、公社法三三条に依拠し、具体的懲戒事由は同条に基づき公社就業規則及び懲戒規程等として制定されている。被告公社は、国民生活のあらゆる分野において国民生活全体の利益と密接に関連する公衆電気通信業務の遂行を国民から付託され、正確かつ迅速にこれを処理し、国民の信用ないし信頼に応えなければならない公共性の高い企業法人である。そのため公社職員の服務規律等の関係においても、一般私企業のそれと異なり、国家公務員に準ずる取扱いがされている(公社法三四条・国家公務員法九六条、公社法一八条、三五条、公社関係法令準用令二条一三号、公社法三一条・国家公務員法七八条、公共企業体等労働関係法一七条一項・国家公務員法九八条等)。従つて、公社職員の懲戒については、一般私企業における懲戒(その目的は職場規律ないし企業秩序の維持にある。)と共通する点のあることは否めないが、前記公社職員の地位の特殊性に照らし、一般私企業と同一視されるべきではなく、国家公務員に準ずる取扱いがされるべきものである。すなわち、被告公社は利益の追求を第一目的として存在するものではなく、国民の付託に基づき公共の福祉の増進を目的として設立された公共企業体であるから、その職員は職務の遂行にあたり、法令等を遵守し、公正誠実であることはもとより職務外にあつても、国民の信頼を裏切るような反社会的行為を行うことは許されない。公社職員が職務外で重大な非違行為を行つた場合、それは当該職員個人の品位を傷つけ信用を失墜させるにとどまらず、当該職員を使用している被告公社自体の信用をも失墜させるものであり、国民から公社の公正さを疑われることになり、被告公社の企業秩序の維持ないし利害に密接に関連するものといわざるを得ないからである。

そうだとすると、週休日あるいは昼休み時間における職員の非違行為に対しても懲戒権を行使することは当然許されなければならない。

(三) 原告の昭和四五年六月二〇日から同月二五日までの間における五日間の無断欠勤(被告公社の時季変更権の行使)<省略>

(四) <省略>

3  被告の主張に対する原告の認否と反論<省略>

第三証拠<省略>

理由

一  請求原因1(本件処分当時の原告の地位)、同2(本件処分の発令とその理由)の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、原告に、本件処分の理由掲記の懲戒事由があるかどうかについて検討する。

1  原告の昭和四五年六月一九日の非違行為の存否

(一)  被告の主張(二)(1)前段の事実のうち原告が反戦青年委の集団を誘導して押しかけたとの点、管理者に対しその脇腹をこずく等の暴行を加えたとの点を除き当事者間に争いがなく、この争いのない事実と<証拠省略>を総合すると、次の事実が認められる。

原告を含む山形地区反戦青年委員会(反戦青委)の集団一〇名は、昭和四五年六月一九日、統一抗議行動と称して「自衛隊員募集反対」、「公衆電話三分打切制紛砕」、「郵便番号反対」等のスローガンを掲げ、同日午前から午後にかけて山形市役所、山形電報電話局(山形局)、山形郵便局へ押しかけたものであるところ、午後零時三〇分ころ、山形局に向けて「反戦」と染め抜いた赤旗を先頭に、続いて原告ほか一名のグループ、次いで他の集団が続いて進み、同局西玄関入口付近に赴き、予め同集団の行動を察知して局舎の警備にあたつていた同局運用部長片倉正、同局庶務課長武田清、伊藤庶務係長ら三名の管理者に対し、先頭にいた右集団中のある者が「公衆電話の三分打切制について抗議する。局長に会わせろ。」と申し向け、武田庶務課長から「局長は不在だ。」「このような異様な姿の者には会わせられない。帰りなさい。」と拒否されるや、口々に「会わせろ。」「どんな格好なら会わせてくれるのだ。我々は会う権利があるのだ。」等と大声で叫び、前記三名の管理者を押しのけて強引に局舎内に押し入ろうとしたために、これを阻止しようとする同人らともみ合いの状態が生じ、この間右集団のある者は右管理者らの肩に手をかけてゆさぶり、ある者は脇腹を何度もこずき、またある者は管理者を押しのけながら、閉めてあつた玄関入口のガラス扉を開けようとしたり、更に他の者らも口々に「お前ら何故立つているんだ。」「管理人は人民の敵だ。」「お前ら公社の番犬。」「局は人民のものだ。」等と大声で喚き、その中の一人は携帯マイクで「三分打切反対」等と叫び続けていた。

ところで、原告はこの間、右集団の暴言、暴行に対し、これを制止するような行動は一切取らなかつたばかりでなく、かえつて、右集団の先頭部分に位置して右西玄関に赴き、前記のとおり、面会を拒絶されるや、片倉部長に対し、公衆電話の三分打切制及び夏期手当差別について抗議するから局長に会わせるよう何度も申し向け、同部長の身体を自分の身体でぐいぐい押しつけ、あるいはその下腹部付近をこずいたりして、強引に入局しようとし、更に、「運用部長の馬鹿者、馬鹿野郎。こいつは生意気なんだ。貴様のような奴は山形から出て行け。公社の番犬。」等と暴言を繰り返し浴せた上、同部長が前記ガラス扉の一部が偶々開きかけたのに気付き、右手で扉を押えて閉めようとしたとき、自分の左腕と身体を、扉にかけた同部長の右手に押しつけて扉から手を離させようとし、同部長が「いたい。鈴木やめろ。暴力はやめろ。」と言うのも聞き入れず、なおも押し続けて苦痛を与え、扉を閉めるのを断念させる等の暴言、暴行に及んだ。

そのうち、右集団は入局を諦め、リーダーらしい男が、局舎内にいた次長浅野作右エ門に対し「抗議文渡すから次長出て来い。」と叫び、次長が「そういうもの貰う筋合ではない。」「帰れ。」と何回か応酬しているうち、リーダーらしい男が、携帯マイクで「公衆電話三分制を即刻中止せよ!!」との抗議文を記載した山形地区反戦青年委員会作成名義のビラ<証拠省略>を読み上げ、読み終ると、これを丸めて右玄関扉の内側で警備していた前記浅野同局次長の方へ目がけて放り投げ、再びマイクで「公衆電話三分打切に抗議する。」「局長、次長が会わないことに抗議する。」と言つたうえ、集団で一斉に「三分打切反対」のシユプレヒコールを何回か繰りかえして気勢をあげ、「明日また来るから覚えていろ。」と言い残して午後一時五分ころ引きあげて行つた。

<証拠省略>中右認定に反する部分はたやすく採用できないし、他に右認定を覆えす証拠はない。

なお、公衆電話の三分打切制は<証拠省略>によつて明らかなとおり、公衆電気通信法の一部改正案に折り込む形で立法措置が講ぜられ、昭和四四年春の第六一通常国会に提案され、国会における審議を経て決定され、実施に移されたものであり、被告公社の一地方局にすぎない山形局の局長に対し右制度の撤廃を求める抗議をすることは本来筋違いなものである。

又、<証拠省略>によれば、昭和四四年、四五年当時は全国的に安保反対・反戦デモ等の動きが活発となり、各地で警察機動隊とデモ隊との衝突や、これに伴う大量の逮捕者の続出がみられ、山形県下もその例外ではなく、又、昭和四四年一〇月大阪で原告の所属する反戦青委とは全く別個の集団であるとはいえ、反戦と称せられる集団が、大阪中央電報局に不法乱入した上、火炎びんを振りかざすなどして一部を占拠し、公社業務の正常な運営を妨害するという事件の発生をみるなどの緊迫した社会情勢のさ中にあつて、山形局は昭和四五年六月一七日ころ、原告ら反戦青委の配布したビラをみて、同月一九日に右集団が公衆電話の三分打切制の抗議と称して同局に押しかけてくることを知り、右ビラの内容(過激な表現とはいいえても少くとも、決して穏当な表現ではない。)、前記社会情勢等から、同局業務の正常な運営を妨害される危倶を抱いたため予め警備体制をとつていたものであり、警備方法も管理職者二三、四名を同局舎東口通用門、西口玄関及び窓口の三ケ所に分けて配置して入局を阻止する構えでいたにとどまるものであることが認められ、この警備態勢が原告ら反戦青委の集団を興奮させる一因となつたとしても、これが被告公社を責むべき事由とならないことはいうまでもない。

原告の前記六月一九日の行動は、なるほど原告が反戦青委集団の指揮者として、同局舎の内部構造を知らない他の部外者を指揮、煽動して押しかけたというような事実を裏づける証拠はないが、前記認定の事実から明らかなとおり、原告は被告公社の職員として山形局に勤務する者でありながら、前記集団の同局管理者に対する暴言暴行を制止しなかつたばかりか、これを加担し、自らも前記認定のような暴言、暴行に及んだものであり、加えて、<証拠省略>を検討すると、同月一六日夜、同月一九日の反戦青委の統一抗議行動に向けて開かれた会議の際、当初全く予定されていなかつた本件公衆電話の三分打切制抗議行動につき原告から提案があり、説得の結果、統一抗議行動の一環として取入れられた

もので、原告の積極的な提案、説得がなければ右三分打切制抗議行動なるものは行なわれなかつたであろうことも認められ、原告のこうした自らの置かれた立場を顧慮しない軽率極まりない行動は、その情状において、社会良識に欠けた悪質なものといわなければならない。

してみると、本件処分の理由の一として、原告が反戦青委集団の一員に加わり自己の勤務する山形局へ押しかけ、警備にあたつた管理職らに対してとつた暴言、暴行を悪質な非違行為として非難、掲記したことは十分これを首肯することができる。

(二)  ところで、被告公社の職員に対する懲戒権は被告公社の総裁に与えられている(公社法三三条)。これは被告公社が公共性の極めて高い公衆電気通信業務を営むものであるところから、被告公社がその企業目的を達成するのに損失となるような職員の非違を戒めて企業秩序を維持するために必要なものとして法が特に総裁に懲戒権を付与したものと解されるが、少なくとも総裁の有する懲戒権は被告公社の企業秩序を維持するために必要な場合、すなわち職員の非違によつて企業秩序が現実に侵害されたか、または侵害される虞れが生じた場合にその行使が許されることは言うまでもない。「局所内における風紀秩序を乱す言動」を懲戒事由の一に掲げている公社就業規則五条八項の規定も、右のような場合に適用が予定されているものと解すべきである。

ところが原告は、右規定についても懲戒事由の掲記として明示を欠く旨主張するようであるが、同条は一項ないし七項にわたつて公社企業秩序、風紀を乱す具体的事由について例示列挙し、同八項はその他を包括的に掲げたものにほかならず、如何なる行為が同項に該当するかは問題となる個々の行為につき、それが発生の都度、同条一項ないし七項までの事由を基準として同条全体の趣旨に照らして個別的に決定されるべきものであつて、企業秩序違反行為という事柄の性質上禁止行為の基準の掲記としては、右程度で十分というべきである。原告の主張は採用できない。

そこで本件をみるに、前記六月一九日が原告の週休日に当つており、同日の前記非違行為が業務外の行為であつたこと、及び山形局のほぼ昼食休憩時間中(一部職員については例外となる)に行なわれたことは当事者間に争いがないが、他方右行為が終始被告公社の管理運営する山形電報電話局西口玄関及びその付近の公社敷地内で行なわれたこともまた当事者間に争いがないところであり、企業外の非違行為と異なり、原告の前記六月一九日の非違行為は、山形局の正常な業務の運営を妨害し、もつて被告公社の企業秩序を現実に侵害したものというべきであるから、原告の主張する当日が原告にとつて週休日であることや山形局の休憩時間中の行為であることは、本件では考慮に値いしない。従つて、原告の前記行動は、公社就業規則五条八項に該当するといわなければならない。

2  原告の昭和四五年六月二〇日、二一日、二二日、二四日、二五日の無断欠勤の成否

(一)(1)  労働者の年休は、労働者がその有する休暇日数の範囲内で休暇の始期と終期を特定して時季指定をすることによつて成立し、およそ使用者の承認の観念を容れる余地はなく、ただ右指定時季に年休を成立させることが事業の正常な運営に支障を来す事情が客観的に存在し、且つこれを理由として使用者が時季変更権を行使した場合には年休は成立しないものと解するのが相当である(労働基準法三九条)。

本件では、原告が昭和四五年六月二〇日から二二日までと翌二三日から二五日までと二度にわたり合計六日間につき年休の時季指定をしたうえで右各日とも出勤しなかつたこと、これに対し右二三日を除く五日間につき、原告の所属長である丹野久課長が、業務上支障があるという理由で原告に対し時季変更権行使の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。そこで、以下には被告公社が時季変更権を行使するに当つて、被告公社の事業の正常な運営に支障を来す客観的事情が存在したかどうかを検討する。

(2) ところで、使用者の時季変更権成立のためのいわば正当事由は、使用者の事業の正常な運営を妨げる事情(労基法三九条三項但書)であるところ、労働者の年休制度の実質的保障を考慮すると、本件においても、原告の欠勤が単に原告の所属する部課限りの業務遂行上の支障を招来する事情、あるいは単に業務を多忙にする事情にとどまる場合は右正当事由に該当しないというべきであつて、原告の使用者である被告公社の事業そのものの運営上に支障を来す事情と評価されるものでなければならない。すなわち、本件では、被告公社は電報の送受信業務の支障を主張するところ、被告公社が国民から付託を受け電気通信事業を営む公共企業体であり、原告が被告公社の一地方局である山形電報電話局運用部受付通信課通信担当係に勤務し、同担当係が電報の送受信を業務内容としていることは当事者間に争いがないところであるから、被告公社が業務上支障事由とする原告の欠勤が、山形局の管轄区域内の電報利用者の信用ないし信頼に応え得る迅速且つ正確な電報取扱業務に支障をもたらす事由と認められる場合でなければならない。

もつとも、右支障事由の存在は、その判断が事前のもので且つ判断権が法律上使用者に委ねられていることや、多くの場合使用者側で無理をしてでも欠員の補充をし、あるいは残余作業員が欠勤者の担当業務を補つてしまう等のため、現実に事業の運営に支障が生じることは少ないと考えられるから、結局右支障発生の蓋然性を窺わせる事情が存在すれば足りるというべきである。

(二)(1)  当事者間に争いのところによれば、原告の所属する通信担当は、電報の受送信、中継という電報サービスの中枢となる重要な作業を担当し、電報処理業務の性質上二四時間勤務を余儀なくされている。このため、通信担当では、服務計画について独自に交替服務体制をとり、その実施のために、まず過去の時間帯別の電報取扱数等を基礎にして各曜日ごとの勤務種別予定配置人員を合理的に算出した服務線表を作成し、これを全電通労組に提示し、同労組との協議を経て決定する心次に同線表の予定配置人員、職員個々の経験、技能等を勘案して少くとも約一か月程度の期間ごとに個々の職員の毎日の勤務種別を定め、予め本人に通知する。こうして山形電報電話局ひいて被告公社は業務確保のための所要人員を把握でき、迅速且つ正確な電報処理の遂行に具えるとともに、他方通信担当職員に対しては、ほぼ一か月にわたる毎日の予定勤務を予め了知させ、計画的な個人生活を送れるよう配慮している。

通信担当職員は右の勤務予定の下で休暇制度を利用するのであるが、この場合にも公社の企業利益と職員の個人生活の利益との調和が考慮されている。これを年休利用の時期方法についてみると、交替服務者が年休をとる場合は、原則として前々日の勤務終了時までに請求するよう定められ(なお、<証拠省略>によると、当該勤務日の前日に、休暇者の人数、内わけ等を勘案して、具体的勤務内容、就労時間を定めた勤務割記録表が作成され、翌日の勤務日の作業態勢が具体的に決定される。)、これに従つて休暇が成立した場合、所属長は代務者の補充が必要であると判断すれば、他の通信担当職員に対し予定外の服務種別もしくは勤務時間の勤務を命ずることができるが、変更日当日もしくは前日になつた場合には本人の同意を得なくてはならない取扱いとなつている。従つて、この限度で職員の年休時季指定の効果は制約されることになるが、この程度の制約は企業経営の上から許されるやむを得ない制約であると解される。もつとも、<証拠省略>を総合すると、宿直・宿明勤務の場合を除き、右の年休請求の時期・方法は必らずしも守られておらず、勤務日前日あるいは当日になつて年休の申出をしたり、またその請求の方法も所定の手続に従わず同僚の職員に電話をかけて所属長に年休申出の連絡を依頼するだけで、所属長の回答も聞かずそのまま欠勤する等の安易な請求方法も行なわれており、他方、山形局側でもこうした職員の年休請求の時期・方法を容認していたことが窺われ、この認定を左右する証拠はない。

以上を前提として、次に個別的に検討を加える。

(2)イ 六月二〇日について

丹野課長が原告から六月二〇日から二二日まで三日間の年休の時季指定を受けた二〇日朝の時点で、同日の通信担当の勤務態勢、予測された作業量をみると、同日が土曜日で、原告の勤務種別が日勤(午前九時から午後五時三〇分まで)であつたこと、日勤予定者数及びその内わけは、予定配置人員一二名(係長一、係長代務一、主任一、係員九)中、既に出張者(訓練のため)一名、年休者二名(但し、うち一名は一日、他の一名は午後二時間限りのもの)が決定されており、残りの係員中にも同月一五日付で配達係から転入したばかりの者一名(鈴木憲一職員)が含まれていたことは当事者間に争いがない。<証拠省略>によると、土曜日は官公庁の勤務が午前中で終了するため午前中に電報が集中し、平日の午前中と比較して取扱電報量が増加するのが通例であるのに加えて、日曜日をはさみ翌々日に大安日を控えていたため、配達日時指定の祝電の増加(その程度は一まず置く。)が見込まれたことが一応窺われ、また<証拠省略>によると、係長、係長代務は服務割表の上では通信担当作業全般にわたる管理作業要員とされ、通信作業の交替服務要員にはなつていないことが認められる。

ところで前記2(二)(1)で認定したところから、予定配置人員数は一応の合理性をもつて算出されたものと認められ、従つて、勤務日当日になつて突然これを下回る人員で対処しなければならない事態は、一般的にはそれだけで業務上支障の有力な一事由と考えられるのであるが、他方同じく前記2(一)で指摘した日勤、夜勤勤務予定者の年休請求の時期・方法の実情に照らすと、山形局の場合、右事態から直ちに、当日午前中の通信業務が多忙になるとの一般的推測以上のものを窺うことは困難といわざるを得ない。かえつて、<証拠省略>を総合すると、まず、被告公社が作業量増加の原因とする祝電の増加見込みについてみるに、六月は結婚、入学、転勤等慶祝事の集中時季から完全に外れているうえ、二二日の大安日は月曜日であつて平日に一般人が慶祝事を行うことは少ないのが経験則上明らかであるから、単に明後日に大安日を控えているというだけで多量の祝電の増加を見込むことには疑問が生じる。現に、<証拠省略>の慶祝電報数記載欄を比較すると、二〇日、二一日、二二日の各祝電取扱数は、平日の二四日、二五日と比較して差異はないといつてよい。また、被告公社の主張は、土曜日は午前中に通信作業が混雑するというものであるところ、原告の就業割当は午後一時から三時までさん孔機を用いる印刷電信による送信作業(以下「TX作業」という。)、三時から原書検査作業(以下「検作業」という。)であり、午前中は具体的作業に割当られていないし、右担当時間以外の勤務時間に原告が如何なる作業義務を課せられているのかさえ明らかにされていない。なお、原告の右担当時間帯には、通信作業全般にわたり十分な処理技術を有する他の一名の職員(大類正男職員)が「TX作業」を共同担当し、原告の「検作業」と並行して着信電報の受信、運信作業に割当られているところ、午後の作業量はさほど大量のものとも考えられないから、午前中担当者の補助を得れば、右大類一人で処理できないものかとの疑問が生じる。更に、係長、係長代務は前記のとおり勤務割表上は通信作業の服務要員ではないが、取扱電報数の状況に応じ、多忙とみればいつでも直接通信作業を行い、その間の管理業務は受付通信課課長、副課長が代替し、管理業務に支障を生ぜしめない体制がとられていることが認められる。この点につき、被告公社は、当日の係長は通信作業ができないと主張するが、これを認めうる証拠はない。ちなみに、同日の日勤帯の通信作業は、欠勤した原告の代務者を補充しないまま行なわれたにもかかわらず、支障なく円滑に処理されたとの業務報告が認められる。

以上の認定事実を総合すると、二〇日朝の時点で原告の欠勤が電報業務の迅速且つ正確な処理に支障を来す蓋然性を裏づけるに足る客観的な事由であつたとはたやすくいうことができないから、被告公社の時季変更権は成立しないといわざるをえない。他に右認定判断を左右する証拠はない。

ロ 六月二一日について

同日について被告公社の主張する業務上支障の根拠は、前記二〇日同様作業人員の不足と大安日を翌日に控え、配達日時指定の祝電による作業量の増加が見込まれたということにある。しかし、祝電増加の予測については、前項2(二)(2)イで指摘したとおり、さしたる増加は見込まれないと予測するのが相当であること、しかも被告も自認しているように配達日時指定電報は前日の二〇日にも相当数出されるものとみられ、そもそも総数からしてさしたる量でもないものが二日間に分散して取扱われることになるのであるから、二一日の作業量は祝電増加分を見込んでも、平素の日曜日と大差ないものと予測するのがむしろ客観的事情に添い相当というべきである。

次に人員不足の主張についてみるに、前記二〇日朝の時点で、原告の二一日の勤務種別が午前八時三〇分から午後四時までの日勤勤務であつたこと、この日の日勤予定配置人員は七名(係長一、主任一、係員五)であつたが、そのうち既に年休者二名(一名は一日、他の一名は午前九時から正午までの半日)が決つていたことは当事者間に争いがない。ところで、<証拠省略>によると、平素の日曜日には五名の作業人員が必要であるという。すると取扱作業量において、二一日を平素の日曜日と殊更区別する理由の乏しいことは前記のとおりであり、他に特段の事情の認められない本件では、この日も五名の作業人員をもつてすれば足りると考えられるところ、当日の前記人員から更に原告が欠けても、係長は業務状況に応じていつでも直接通信作業に携わる体制にあること前項2(二)(2)イのとおりであり、また二名の年休者のうち一名は午前中だけの半日年休者であるから同人を午後の作業人員に予定すれば全体として五名の作業員が確保されているといつてよいだろう。しかも、<証拠省略>(二一日の勤務割記録表で、前日に作成される。)によると、当日の日勤予定者の一人である桜井寛職員は、<証拠省略>に従うと未だ通信担当作業全般にわたり習熟しているとはいえないまでも、通信担当の中心作業であり、最も高度な技術を要する「TX作業」をはじめ、他の作業ができないわけではないのに、午前中に「検作業」にのみ割当られていることが認められる。すると、右勤務割記録表<証拠省略>の同人の就業内容に徴し、山形局では当日の作業量について原告の欠勤を考慮してもなお右桜井職員に「TX作業」等他の作業を担当させるまでもないと判断していたものと窺えなくはない。ちなみに、<証拠省略>によると、二一日は原告が欠勤したまま代務者の補充なしに作業が行なわれたにもかかわらず、日勤帯の電報取扱業務は支障なく円滑に行なわれたことが認められる。

すると、同日についても、原告の欠勤により、作業遂行が多忙になることの予測は相当とうなづけるにしても、それ以上に通信作業の迅速、正確な処理に支障を来す蓋然性を裏づけるに十分な事情を見出し難く、この日についても被告公社の時季変更権は成立しないといわざるを得ない。他に右認定、判断を左右する証拠はない。

ハ 六月二二日について

当日は大安日で慶祝事にあてる祝電のため作業量が増加することが予想され、これを処理する作業人員が不足するというのが、被告公社の業務上支障事由とするところである。

しかし、祝電数の増加見込みについては前記(二)(2)イで述べたとおり、さほどの増加は予測できないとみるべきであるうえ、相当数の祝電が既に配達日時指定電報として出されていることを考慮すれば、平日と比較して更に特別な増加は到底予測できないというべきであろう。ちなみに、<証拠省略>によると、二二日(大安日当日)の取扱慶祝電報数が平日(二四日、二五日)を含めた五日間中で最も少ないことが認められる。

次に、作業人員の不足についてみるに、前記二〇日朝の時点で原告の二二日の勤務種別が日勤(午前八時三〇分から午後四時三〇分まで)であつたこと、当日の日勤予定配置人員一五名(係長、係長代務、主任各一、係員一二)中、出張者(訓練のため)一名、特別休暇者(墓参のため一日)一名、年休者(一日)二名、組合休暇者(一日)一名が既に決つており、残りの係員中には前記鈴木憲一職員が含まれていたことは当事者間に争いがない。なお、被告公社はその外残余係員中に「TX作業」のできない者二名が含まれていたと主張するが、<証拠省略>によると、右二名とは桜井寛、松根良弘の両職員を指すと思われるところ、なるほど右両名とも単独で「TX作業」により多量の電報を送信できるほどの技能は有していないことが認められるが、松根職員については他の一名(清水敬三)と協同担当とはいえ、現に「TX作業」に就いているほか、「TX作業」と「検作業」の兼担さえ割当られている。また桜井職員の技能程度も前記(二)(2)ロに認定したとおりで松根職員と同程度のものと認められるので、被告公社の右主張は首肯し難い。また係長、係長代務が実質的には通信作業要員といつてよいことも既に述べたとおりである。更に<証拠省略>によると、大安日当日の祝電は午前中に集中し、その処理は殆んど午前中で終つてしまうという。ところが、<証拠省略>(二二日の勤務割記録表で、前日に作成される。)に記載の作業員の配置順、就業内容をみると、午前中は五名(前記鈴木憲一、桜井寛を含む。)が配置され、最も作業が難しいとされる「TX作業」には二名が割当られているのみであり、桜井職員は前記のとおり「TX作業」ができないわけではないのに技術的に簡単な「検作業」に割当られているだけであるし、<証拠省略>から通信作業全般に習熟していると認められる植松晃職員に至つては午前中には何ら具体的に作業を割当られていない。また、午前中の担当者中午後にも作業についている職員が認められ、午前と午後とに明確に作業担当者を区分けしているものとも窺われない。そして、山形局側においても、右記録表作成時点では、既に、原告の二二日の欠勤を予測していたことが十分窺われるし、原告の代務者を補充していないことも明らかである。なお、当日の通信作業は原告が欠勤したまま補充員なしで行なわれたが、何ら支障がなく、円滑に処理されたことが<証拠省略>により認められる。すると、山形局では二一日に右記録表を作成するに際し、原告が欠勤してもなお予想される作業量に見合う人員が確保されており、作業遂行に支障は生じないとの見通しを有していたのではないかと推認される。従つて二〇日朝の時点で、予測される二二日の作業量と作業人員の実質的内わけを対比すると、原告の欠勤が業務上支障を生ぜしめる事由になるとは認め難い。

加えて、二二日について考慮を要するのは、原告が同日の年休請求をしたのが前々日の朝であつた点である。すなわち、原告から二二日の年休請求に対しては、所属長は必要に応じて他の職員に勤務割変更を命ずることができる。年休制度の実質的保障を考慮すると、所属長の右命令権は可能な限り右命令権を行使して必要な代務者を補充する義務を包含すると解すべきである。ところが被告公社は、一方で原告の代務者の補充なくしては、通信業務に支障が生ずるといいながら、丹野課長が三日の夜勤予定者三名に勤務割変更を命ずることを検討したところ、一名が既に一日年休をとつていたため不可能であつたと主張するにとどまり、その他の交替服務要員中に代務者を求めたか否かについては何ら主張、立証がない。従つて、この点でも原告の年休成立を妨げる正当事由は認め難いというほかはない。

以上のとおり、二二日についても被告公社の時季変更権は成立しないといわざるを得ず、他に右認定、判断を左右する証拠はない。

二 六月二四日、二五日について

原告の右両日の予定勤務種別は六月二四日が宿直(午後五時から午前零時まで)、二五日が宿明(零時から午前九時まで)の二日連続の勤務であつたこと、原告を含め三名が二四日、二五日の右勤務に配置されていたこと、原告が右両日欠勤したことは当事者間に争いがない。又、<証拠省略>を総合すると、宿直・宿明勤務は二日間にわたる長時間の勤務時間中に交替で仮眠、休憩、食事をしながら通信作業を続けるものであるため、通信担当では、当時の山形局の取扱電報量、通信作業の円滑な遂行、作業員の健康管理等の考慮から常時三名の配置が必要であり、一名でも欠務者が出る場合には代務者を検討し、勤務割変更をして必らず三名を確保することにし、その通り厳格に実施されていたことが認められる。右認定事実からすると、宿直、宿明勤務の場合に三名の作業員を確保できないことは、直ちに業務の正常な運営に支障を来す事由といえる。

<証拠省略>によると、丹野課長が二三日朝、原告の右年休の請求を受けた際二四日、二五日は宿直、宿明服務であるため原告の交替者の有無を検討し、これが有れば年休を承認するという趣旨の回答をし、係長に命じて原告の交替者を手配検討したこと、その後同日午後二時三〇分頃原告が再び右年休の承認につき回答を求めて来たが、同課長は未だ承認できる状態ではないと判断して、交替者の有無について更に検討し、二四日朝確答すると答え、更に同日夕方石井源左エ門職員が原告の年休の承認を求めて来たので、同課長は交替者がいないと判断し承認できない旨回答したこと、二四日の勤務割は原告が出勤するものとして作成されたこと、二四日午前八時三〇分頃丹野課長から指示を受けた井上源吉副課長は、原告の母親から年休の承認を求める電話を受けた際、交替者がいないため業務上支障があり承認できないと回答し、もつて時季変更権を行使したこと、その後同副課長は原告が二三日夜デモ行進に参加してその際逮捕されたことを知り、原告が同日夕刻までに釈放されず、出局できない場合を想定し、そのような事態になつた場合でも三名の宿直、宿明勤務者を確保しておく趣旨で改めて時間割の変更に応じる者を探し、同日午前九時三〇分頃、白旗邦彦職員の同意を得て同人を代務者として確保したため、結局原告は欠勤したがそのために支障は生じなかつた等の事実が認められる。

ところが原告は、二三日の中に白旗職員が原告の交替者として確保されていたと反論し、<証拠省略>によると、白旗職員は二四日の勤務割の上で同日午前九時三〇分から日勤々務になつていたにもかかわらず、同日朝出勤しなかつたという、右反論に添うような事実が認められ、原告も後日白旗職員から同職員が二三日の昼ころ、電話で山形局に対し原告の勤務を代務してもよいとの返事をしていた旨聞いていると供述している。白旗職員が二四日朝出勤しなかつたことについては、同職員の勤務が午前九時三〇分からであり、山形局側で同職員を原告が不出勤の場合の補充要員に決定したのが午前九時三〇分頃であることからすると、出勤前に改めて宿直、宿明勤務を依頼されたため出勤しなかつたとも考えられないではないが、全証拠によるも、結局その不出勤の理由は明らかではない。しかし、仮に二三日に通信担当係長が白旗職員に打診し、その意向を聞き、同職員が交替に同意を示していたとしても、同職員は二四日の日勤予定者であり、単純に原告と交替勤務させることはできず、同職員の意向のみでは代務者に決定できるものではない。かえつて、前記2(二)(1)掲記のとおり、被告公社においては職員の勤務日前日になつての年休の申出に対しては所属長は他の職員をして業務命令により代替勤務させる権限はなく、従つて、代務者を補充して年休を認める義務はないというべきところ、前記の丹野課長が原告に対し代務者がいれば年休を認めてもよいとの趣旨の回答をしたのも、なるべく無理のない勤務割変更で対処できる場合を考慮したものとみるのが相当である。従つて、仮に原告が前日の二三日に白旗職員の同意を得ていたとしても、このことをもつて、直ちに被告公社の時季変更権行使が正当事由を欠くものとはいえない。

又、原告は、二四日朝白旗職員の代務が決定した時点で、被告は、既にした時季変更権行使を撤回し、改めて原告の年休を認めるべきであると反論する。しかし、前記のとおり白旗職員は通常の交替ではなく、あくまで原告の出勤を期待し、それがかなわない場合のいわば予備交替員として決定されたものである。宿直・宿明勤務の交替は、日勤、夜勤のそれと異なり、山形局としても前記2(二)(1)掲記の原則に従い、厳格に対処し、職員も所属長に対し事前に申出をしていたことは<証拠省略>によりこれを認めることができるから、原告の右主張を容れることは、なしくずし的に前記原則的取扱いを崩すことになり、企業経営の立場を考慮すると安易にこれを肯定することはできない。なお、この理を認めなければ、前記2(一)(2)後段で述べたように、使用者の時季変更権を行使できる場合は殆んどなくなつてしまうことも考慮されなければならない。

従つて、右二四日、二五日の原告の年休の時季指定に対しては、被告公社の時季変更権の成立を認めるのが相当であり、他にこの認定、判断を異別にする証拠はない。

(三)  以上のとおり、原告の五日間の欠勤のうち、六月二〇日ないし二二日の三日間については年休が成立しているが、同月二四日・二五日については被告公社の時季変更権の行使により年休は成立せず、従つて、原告の右二日間の欠勤は公社就業規則五条一項に違反し、同五九条一八号に該当する。

3  原告の過去の徴戒処分と公社就業規則五九条一一号

<証拠省略>によれば、被告の主張(四)の各懲戒処分及びそれぞれの理由となる原告の非違行為事実が認められ、原告が再び前記六月一九日山形局へ押しかけ、その際管理者に暴言、暴行に及んだこと、及び六月二四日、二五日に無断欠勤したことは公社就業規則五九条一一号「非行について再三注意されてなお改悛の情がないとき」に該当する。

原告は、これをもつて過去に既に処分を受けた非行を再び処罰するものであるというが、前記就業規則の規定の趣旨は、同一行為の二重罰を定めるものではなく、非行を反覆し、改悛の情がない点を処分の重要な情状理由として取上げたものと解すべきであり、この趣旨で適用される限り原告の非難は当らない。本件処分も原告が右二回の処分にもかかわらず、僅か数か月の後、再び前記各非違行為に及んだ点に改悛の情がないとして非難を向け、これを重要な情状理由としたものと認められるから、原告の主張は採用の限りではない。

又、原告は、前記就業規則の条項の「再三注意されて」とは、懲戒処分の対象とならない注意処分のみを指すと主張するが、そのように解すべき明文規定も、合理的根拠もなく、原告の独断というほかはない。

従つて、被告公社が本件処分発令に当り、その理由の一として右就業規則を適用したことには何ら違法はない。

4  最後に本件処分の相当性について検討する。

前叙認定のところからすると、本件処分の理由中昭和四五年六月二〇日から二二日までの原告の無断欠勤の点は根拠がないが、その他の理由掲記の事実は存在し、右無断欠勤不成立の点を除外しても原告の情状は重いと考えざるを得ない。従つて、本件処分は、原告の過去の処分内容(ことに昭和四五年二月一六日付の逮捕されるような行動に参加し、一四日間無断欠勤をしたことを理由とする一か月の停職)と比較しても、公社総裁の懲戒権行使が裁量権の濫用にわたる著しく均衡を失した不相当な処分であるとは到底認められない。

三  原告の憲法違反等の主張について

原告は本件処分が原告の政治的活動や組合活動の制約を目的とするもので憲法一四条、一九条、労働基準法三条に違反する無効なものであると主張するが、本件処分は既に二項に明示した正当な理由に基づくものであるから、何らその主張のような目的を意図したものとは到底いい得ないし、これを認める資料もない。原告の右主張は採用できない。

四  よつて、原告の請求はいずれも理由がないからすべて棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 野沢明 藤村啓 小野貞夫)

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